木の魅力を知っているからこそ心を込めて
武本正博さん(津山市)の生まれ育ったところは、美咲町旭地域。
人気のテレビ番組、ポツンと〜 に取材されそうな旧旭町のなかでも山間地でまわりは、 植林されたヒノキや銘木になりそうな雑木などが生い茂っているい わば限界集落だ。
幼い時には、 数百メートル離れた近所の子どもと山野を駆けまわり過ごしたとい う。小学校、 中学校時代は途中からスクールバス通学になったとはいえ、 一時間以上かけて山道を通ったという野生児だったらしい。
そのおかげで、 津山高校に通う頃にはスポーツ万能で体力には自信があった。
いつも山の中にいる、木が成長する様や、 伐り出される様子を見るのが生活そのものだと言っても過言ではな い正博少年だった。
取材日、9月8日は生まれ変わり記念日

はじめに断っておくが、武本正博さんは、筆者武本の夫である。 贔屓目にならないよう、 忖度しないよう冷静に取材者の目で見ることを心がけて書いている つもりだが、お見苦しい点があればお許しいただきたい。
さて
生まれ変わり記念日とは。。。
平成7年9月8日、武本さんは突然の病に倒れた。
まだ40歳代の前半、脳出血だった。
その病気になるまでは病気をしたこともなく、 健康管理にも無頓着だった、 折しも長年フロントマンとして務めた津山国際ホテルを退職し、 何か人のためになる仕事につきたいと次のステップに向けて勉強中 だった。
右半身にまひが残った武本さんだったが、 前向きにコツコツリハビリを重ねて行った。
「何年か前までは、 今日で生まれ変わり何歳とか数えていましたが、 今ではざっくり何年前としか覚えていません、ただ、 毎年誕生日として家族で美味しいものを食べ好きなお酒を飲めるこ とに感謝しています」。
平成10年木工と出合う
自宅からリハビリに通い、少し体力に自信が持てた頃、 津山高等職業訓練校で木工芸を学んだ、 半年の間簡単な木工作品を作る基本を学び、 卒業してから趣味として楽しんでいたが、ある日「 津山工芸愛好会」に作品を出してみませんか。 と同会のお世話をしてくれていた津山商工会議所の女性職員に声を かけていただいた。
「私の作品は人にお見せするようなものではありません」
と固辞していた所、家族からも
「やってみたら」
と背中を押され、「おそるおそる」作品を出したそうだ。
その作品は、第47回津山工芸愛好会新人賞(平成28年度) を受賞し、今後師と仰ぐ、 國本敏雄先生との出会いにもつながった。
そして漆塗りの奥深さを学び、まだまだ勉強中だと言う。
その年から津山工芸愛好会の仲間に入り、 楽しみながら作品製作に取り組んでいる。
また工芸愛好会のほか、 昨年から日本伝統工芸会の研究生として研鑽を積んでいる。

今の創作の様子
現役で会社勤め(福祉関係)をしながら、 創作活動に励む武本さんだが、月に2回は、 真庭市草加部の國本敏雄先生の教室に通い、 木工とは木とはについて深く学んでいる。
「先生の言われることは、とてもためになり、 製作にあたって意味深いことを毎回教えてくださり感謝しています 。県展や展示会に出す作品も先生に見ていただき、 直すところなど教えていただけるので良い作品を自信を持って出す ことができます」。
と言う武本さんは今年の県展では、2回目の入選を果たした。
「今回はあまり器量の良い子(木)ではなかったので、 どうかなと思っていましたが、 丁寧に漆を塗ったので評価していただけたのだと思います」。
そして、月2回、勝北木工クラブで木工旋盤を使い「拭き漆」 で仕上げる盆や鉢の素材を作っている。
「クラブのみんなは、とても熱心で黙々と作品に向き合い、 大作に挑戦する人や、 有名な賞に出すために努力している人もいて、 良い影響を受けています」。
毎年、何回かはクラブで展示会などもするが、 コロナ禍の影響でここ数年は大きな展示会はしておらず、 思い思いの作品に取り組んでいるそうだ。
コロナ禍の影響は武本さんの創作にもあって、 國本教室は休みの日が続き、クラブも閉鎖された期間があった。
「小さいものですが、自宅に木工旋盤の機械を買って、 ボールペンや普段使いできる小皿などの小物を作ったりして、 感覚を忘れないようにしました。 でも今は教室もクラブも再開し少しずつ大きな作品を作っています 」と良い顔で言っていたのが印象的だ。


「今後も木と向き合っていく生活ができたらうれしい」
生まれ育ったところが木に囲まれたところだったからかもしれない が、木に対する気持ちはとても優しい。
「銘木と言われる良い木を使って、 良い漆を使い丁寧に仕上げるのが理想だと思いますが、 私はどんな木にも思いを込めて作品を作っていきたいです、 木目が美しくないものや、 虫に喰われているものもできる限りきれいしてその木の持つ良さを 引き出してあげたいです」。
木地に漆を塗っては丁寧に拭き、サンドペーパーで磨き、 また漆を塗り拭きあげる作業を繰り返す拭き漆の技は、 その木の持つ美しさを一番引き立てる技法。
その地道な工程を繰り返し繰り返しやっている武本さんの作品は、 画像だけではなく実際に見ると深みや艶を感じることができる。
先日入選した県展は、 岡山会場は9月14日から18日まで岡山県立美術館で、 津山会場は9月22日から26日まで津山市新魚町のアルネ津山4 階津山市立文化展示ホールで展覧会が開かれる。
また
10月2日には津山市城西地域の城西まるごと博物館でも展示販売 ブースを設ける。
そして
10月5日から16日まで、美咲町百々の北和気郷土資料館で、 ささやかな初個展「武本正博 木工漆展」を予定しているので、お運びくだされば嬉しいです。 と武本さん。
「これからも木と向き合っていく生活ができたらうれしいです」 と笑顔で話した。

武本正博さんの自宅兼工房
津山市大谷469
取材を終えて
筆者の夫を取材して、記事にするのは正直勇気が必要だった。
でも、ちょっと待って。。。
美作人を書かせていただいている私のコンセプトは
地域で地道な活動をしている人だった、、、よね。
だったら、 夫でも良いんじゃないかという自分なりの結論を出してこの原稿に 至っている。
スポーツの祭典、オリンピックは階級別だったり、 男女別だったり、 障害を持った人はパラリンピックというステージがあるが、 武本正博さんの取り組んでいる工芸の世界には体の大小や男性、 女性関係なく同じ土俵の上だ。
病気によって、 利き手の自由がなくなった彼に対して工芸は何の特典もハンデもな い。
その土俵に堂々と立つその姿勢を心から尊敬している。
決して夫自慢ではないが、 彼には家族や人にわからないような悔しさや、 それをはねのける努力があったに違いない。
思いがけない病気や事故で、 気持ちも体も思い通りになりにくい人がいたならば、 元気を出せるきっかけになればと思う。
そして多くの人に木の温かさにふれてもらい、 ゆったりした気持ちになっていただければ幸いだ。
日常の武本さんは、仕事をしながら家庭菜園を楽しんだり、犬、 猫、金魚などのペットとの暮らしを満喫してのんびりと穏やかだ。
この穏やかな日々があることに感謝しながら、 健康に創作活動を続けて行ってもらえたらと心から願っている。
※文中に筆者の夫でありながら、敬称(さん)をつけたことが、 書き手としてすごく恥ずかしいです。お許しください。
(ライター・武本真寿子)
著作制作
